事業報告

2008年度 奈人教 事業報告

第22回『なかま』実践研究集会

『なかま』実践から学び、深め、拡げるために

2月13日、いかるがホールを会場に県内外から約220人の参加を得て、第22回『なかま』実践研究集会を開催しました。

第22回『なかま』実践研究集会第22回『なかま』実践研究集会第22回『なかま』実践研究集会第22回『なかま』実践研究集会

本研究集会は、『なかま』教材を中心とした授業実践を軸にしながら、部落問題学習やさまざまな人権問題に関する教材開発、授業の工夫についての研究と交流の場として、1988年に第1回が開催され、本年で22回めを迎えました。 開会行事では、西田孝寛会長の挨拶の後、奈良県教育委員会人権・社会教育課の藤田和義課長補佐からご挨拶をいただきました。

【記念講演】

大阪教育大学の佐久間敦史さんから「明日からはじめる人権総合学習のために」と題して講演をいただきました。

前半は、小学校の教員生活で出会った子どもたちといっしょに創り上げた人権総合学習への歩みについて、具体的な子どもの姿を交えながらお話しいただきました。まだ、総合的な学習の時間がない頃に、フィールドワークや調べ学習、様々な教科をリンクさせながら、取り組まれた実践が報告されました。父親の職業をもじった「悪口」でいじめられていた子どもを中心にすえ、父親の仕事や生い立ち、その父親を育てた祖母の生き方から子どもたちは大切なことを学び、その取組を通してつながっていきました。

また、荒れていた子どもがいたクラスでは、地域の「太鼓」「だんじり」「祭り」をテーマに、地域の歴史から学び、地元の観光リーフレット作りなどを通した総合学習に取り組まれました。その中で子どもたちが「荒れ」をエネルギーに変えて、エンパワメントされていった様子をお話しいただきました。

このように総合学習は、子どもたちの中にある課題から出発していくことが原点にあるということを提起いただきました。

後半は、大阪の人権教育読本『にんげん』実践の歩みと人権教育の営みの重要性について述べられ、その中で新しい学習指導要領と人権総合学習についてお話しいただきました。

学習指導要領の解説書の中には、これまで奈良や大阪で積み上げられてきた人権総合学習の内実がエッセンスとしてかなり含まれています。総合的な学習の時間数は減るが、その目標や内容、方法がこれまでにもまして事細かく明記され、人権学習を総合的な学習に位置づけることがより重要になってきています。目標の趣旨には、「日常生活や社会に目を向けたときに湧き上がってくる疑問や関心に基づいて…」とあります。「なぜこんな社会問題があるのか」「なぜ差別があるのか」といった疑問から出発し、探求していくという活動が今まで以上に重視されているということを意味しています。

21世紀の普遍的な価値であるべき「人権」や「環境」を、「人権総合学習」として学ぶことが今こそ大切であるのだと述べられ、これまでの「財産」を活用し、新しい人権総合学習の丁寧でかつダイナミックな取組の創造が求められていると締めくくられました。

【分科会】

◇1分科会

五條市立五條小学校の東元真希さんから、低学年用『なかま』の「ほめほめぶくろ」の教材を使いながら、自尊感情を高め、お互いに認め合う集団に育っていったという取組が報告がされました。

友だちと関係を作りにくかったAさんが安心して自分を出せる集団づくりを複数の教師が連携して進めていきました。そして、一人一人の変化を認め、励ますことを心がけてきたことで、友だちのよいところを認めあえる子どもたちが育ち、Aさん自身の成長にもつながっていった様子が報告されました。討議では、

○子どもは「私のことを見てくれている」と感じる気持ちが心の栄養となって育っていくものだ。

○以前に一年生を担任した時、「ほめられた経験がないから、ほめほめぶくろが書けない。」と言う子がいた。保護者もほめるのが苦手な人もいる。ほめることは大変難しいことだが、人と比較するのではなく、まず「認める」ことからはじめよう。 といった意見が出されました。

子どもとじっくりと関わり、ていねいに見ていくことがやはり重要です。そして、保護者とつながり、職員間の連携を密にしながら、取組を進めることの大切さを確認することができました。

◇第2分科会

生駒市立真弓小学校の伊勢木崇宏さんから、中学年用『なかま』に掲載されている「なき声以外は、ムダにしない」を用いた「いのち」について考える取組が報告されました。

養鶏の仕事で生活をしている「ひまわりさん一家」のビデオを視聴した際、羽をむしり取る場面が映ると「かわいそう」「ひどい」という声が聞こえたが、「食べ物には全て命がある。その命をいただいて自分たちは生きている。だからこそ、食べ物を粗末にせず、感謝して食べなければいけない。」というお父さんの言葉が子どもたちに響きました。

その後、「きみの家にも牛がいる」「なき声以外は、ムダにしない」と学習を進める中、養鶏や食肉業の人たちが決して「命をうばう」仕事をしているのではなく、「命を大切にし、命をつなげる」仕事であると考えが変わっていった様子が報告されました。討議では、

○私たちの学校でも、「なき声以外は、ムダにしない」を部落問題学習のきっかけとして取り組んでいる。と場の人は牛を殺しているのではなく、牛をわっている。殺しているという考えは、私たちと牛との関係が繋がっていかない。

○私たちの学校では5年生で毎年、目の前で鶏をさばいてもらっている。実際に目の当たりにすることで技術のすごさに感動し、「ひどい」ことをしているという感覚は払拭される。
といった意見が出されました。

討議を受け、食育を通して、「いのち」の大切さについて考えていく取組はどの学校でも大事にしていかなくてはならないことを確認しました。

◇第3分科会

上牧町立上牧第二中学校の二年学年集団のみなさんから、ケータイメールやインターネット掲示板等にある差別事象と部落問題学習をつなげた取組が報告されました。

まず、子どもたちの携帯電話やパソコンからのインターネット利用の実態を把握することから取組が始まり、その後、ネット差別を題材として取り組むことで部落問題学習へと展開されました。その中で、誤った情報に誘導されない反差別の力をつけることと、中学校用『なかま』の「部落の歴史と解放への歩み」や地元上牧の「御輿騒動」に取り組まれ、部落差別に対する正しい認識を育てることをめざした取組の様子が報告されました。討議では、

○学校での取組が家庭でくつがえされてしまうこともある。保護者に対してのアプローチも大切である。

○部落史学習に取り組む際には、「一人一人の意識」が差別をつくっていったという視点に立つ必要があるのではないか。

○携帯電話やインターネットは、情報ツールとしては非常に便利である。「使うな」ではなく、使いながらスキルやモラルを身につけさせていく必要がある。
といった意見が出されました。

報告や討論から、部落問題学習においては正しい歴史認識を大事にしていくこと、また、ていねいに子どもたちを見つめ、その変わりめやつながりを大切にして、人権意識を身につけさせていくことが大切であることを確認しあいました。

第22 回『なかま』実践研究集会アンケートより

◎全体会(記念講演について)

これまで取り組んでこられた実践を土台に「総合的な学習の時間」の位置づけや、あり方がよく理解できた。これまで自分が取り組んできた総合学習や人権学習を切り離して考えるのでなく、「探求」していく姿勢=「差別」をなくしていく姿勢につながっていくことも確認できた。

新学習指導要領の中で総合学習にどう取り組んでいくのかという視点が少し分かった。佐久間さんが人権総合学習をどうつくったかという話を聞いて、いろんな発想ができるんだなと思いました。

◎分科会(報告や討論について)

第1分科会

「ほめほめぶくろ」を私も授業でさせてもらいましたが、自分自身、子どもをほめてないなと実感しました。自分ではがんばってほめているつもりでも子どもには伝わっていなくて「先生にこんなことでほめられた」という話はあまり出てこなくてショックを受けました。今後も一人一人の子どもを認められる教師でありたいと思います。

第2分科会

食育の推進が言われている中、人権に深く結びつける大事な視点から捉え、教材を創りあげていくことの大切さを感じました。

今までは命、食育というように別々の取組をしていましたので、今回の報告を参考に一つのつながった取組として進めていくことの必要性を感じました。

第3分科会

ネット問題と部落差別の問題をつなげた実践、こんな方法があるのだなと参考になりました。

綿密な計画を立てて、自分たちの地区の歴史を掘り起こして積み上げた中味の濃い実践だった。地区を含まない本校での部落問題学習の方向性を示してくれたように思う。