事業報告

2009年度 奈人教 事業報告

第56回奈人教研究大会 - 第2日 分科会

1.教育内容の創造と学習活動

【第1分散会】

生駒北小からは、5年生で「いのち」の学習に取り組み、その中で「死」を考え、見つめ直す実践報告がなされました。
三和小からは、子どもたちにレジリエンス(逆境や落ち込みから立ち直る心の弾力性)を育てたいと自分たちで研究会を作り、開発した教材を使って実践した報告があしました。
畝傍中からは、2年間の様々な取組の中で、Aが少しずつ変容していく姿が語られました。

討議では、参加者から様々な経験談や思い、各々の実践での苦労や葛藤等がたくさん語られました。
また、親の目から見た私たち教員の課題も出されました。
自尊感情を基盤にレジリエンスを高めることは、しなやかに生きることとともに、差別に立ち向かう力にもなること。「生(性)」と「死」を題材とした取組は、自他を尊重して生きる為の重要な課題であるということ。私たちが自らを振り返り、人権意識・感覚をみがき、子ども一人一人に寄り添った実践を行っていくことの大切さを再確認しました。

【第2分散会】

天理の夜間中学からは、「人生から学びをつくる」という表題で、在日を生きる生徒さんとのかかわりの中で、なかなか自分のことを出せない人生の先輩でもある生徒さんに、この先生は…と理解してもらえなければなかなか話もしてもらえないということ、教師には生徒さんとのつながりを探っていくスキルが必要であるという報告がありました。
つづいて、関屋小からは、「豊かな出会いをするために」というタイトルで「渋染一揆」を学習する中で、クラスの子どもたちが自分の苦しみやしんどさを出し、自身の差別性を見抜き、クラスの仲間に訴えかけるという取組が報告されました。
斑鳩南中からは、「ゼロからのスタート…あれから~部落問題学習を中心に~」と題して、「人との出会い」、「本物との出会い」をキーワードにして夜間中学、沖縄修学旅行での民泊、憲法9条の学習等の取組が報告されました。
部落問題学習に熱心に取り組まれた様子に「ちから」をもらったという意見もありました。

【第3分散会】

畝傍北小からは、造園や能などの中世被差別民衆の担った文化を切り口として、子どもたちの意識を確認しながら部落問題学習に取り組んだ実践が報告されました。
上牧第二中からは、「ネットから派生する問題」と「部落問題学習」をつなげた取組の中で、電子紙芝居の作成や校長先生の特別授業を通して子どもたちの人権認識が変容した様子が報告されました。
高田商業高校からは、アンケートや視聴覚教材を使いながらインターネット(ケータイ)の正しい利用方法を学び、人権を守る力を身につける学習の様子とその成果が報告されました。

グループに分かれての討議では、インターネット(ケータイ)に関しては、学校での取組の必要性や相手の顔を見てコミュニケーションすることの大切さが確認されました。
部落問題学習に関しては、校区に「地区」を含まない学校においても環濠集落や寺社など地域にある身近な教材で展開していくことの必要性と、表面的な学習ではなく、自分や他者を豊かにする学習でありたいということが確認されました。

2.進路・学力保障

【第1分散会】

天理北保からは、授乳期から「食」の大切さを意識して様々な形で豊かな「食」の体験を積み重ね「食」への興味を深める取組や、家庭と「食」を共に考え理解し合っている様子が報告されました。
阪合部小からは、なかまと共に問題を解決し、共にのびようとする集団づくりをめざし、学び合う学習や縦割り活動やスピーチタイムなどを、全校体制で取り組んでいる様子が報告されました。
矢田小からは、研修室に登校する二人の子どもとの関わりや変容、保護者とつながっていった様子、その子どもたちと全校体制で向き合った様子が報告されました。

討論では、一人一人の子どもがかかえる背景をていねいに見ていくことの大切さや、親の思いをしっかり受けとめながら子どもの実態を知ってもらい、共に子どもを育てていこうとする姿勢の大切さが確認されました。
また、学力を高める取組や、課題をかかえている子どもへの関わりに対して、全職員が同じ方向を向いて体制を整えていくことの大切さも確認されました。

【第2分散会】

生駒台小からは、「伝えあう力~相手を意識した情報科~」と題して、情報化社会を生きる子どもたちに機器を活用する能力だけにとどまらず、見えぬ相手を意識する人権感覚の育成に重点を置いた取組の報告がなされました。
また、二階堂小からは、低学力克服のために始まった「まなびタイム」の取組が、都南中からは、「学力保障と小中連携」と題して校内はもちろん、校区の小学校との連携を重視した取組が報告されました。

討議では、「学力」のとらえ方についての意見が出されました。
単に「読み・書き・計算」ができるというのではなく、広く「生きる力」をつけるというとらえの必要性が出されました。
低学力の子どもたちがかかえる様々な問題に教師が寄り添いながら、その子たちが生き生きと輝き、生きていることが楽しいと実感できる学級づくりを基盤にした「学力保障」の大切さが確認されました。

【第3分散会】

郡山中からは、「Aの想い『私は生まれたらあかん子やった』」というテーマで、母親の愛情があまりない中で育てられたAについて報告され、学校、カウンセラー、児童相談所等が連携して生徒や家庭をサポートしていくことの大切さが述べられました。

王寺工業高校からは、「特別な支援を要する生徒の進路について」というテーマでLD、ADHDを併せ持つ生徒の入学から卒業までをサポートした取組について報告されました。
その中で、進路保障の困難さについて述べられました。

櫟本小からは、「日々おのづと、Hさんとの歩みから~不登校の実態から考えられること~」というテーマで報告いただきました。
「焦ることなく自然にゆったりと寄りそう」ことなどが大切だと話されました。

3.自立と共生をめざす集団づくり

【第1分散会】

西吉野幼・片桐小・井戸堂小・榛原小からは、言葉を大切に聴き、認め合う活動、日々の様子を真摯にみつめる中で少しずつつながりが広がっていく姿、「しってほしい」という願いを様々な形でまわりの子につないでいった様子、子どもたちとのやりとりの中で互いを理解し、ルールを作りながら自然な関わりを生み出していった取組などが報告されました。

活発な討論の中で、「子どもと子ども、子どもと教師、教師と保護者、保護者と保護者というように広がるつながりをつくることが大切であります。
そして、進路を保障するためには、どのような姿で社会の中で生きていくのか、そのために何が必要か、考えながら取り組んでいかなければなりません。
そのためにも、どの子も人権に配慮した行動ができるような力が必要でしょう。
ただ、差別の現実があることを忘れてはなりません。
それが、『健常』の側の問題であったり、教育環境の問題であったりするとすれば、自分たちを問いなおすことをスタートにしたい」ということを確認することができました。

【第2分散会】

分科会本分科会では、子どもたちを「権利の主体者」として自覚させ、「個人の尊厳」を絆とする集団をどのようにつくり出していくかということについて、天理中央保・東登美ヶ丘小・郡山西小・秋津小の報告を通して交流を図ることができました。
4本の報告には、背景として、特別支援に関わるものや不登校に関わるもの、虐待に関わるもの等の違いはあるものの、取組の方向性には多くの共通点が確認されました。
そして、教育集団として、教師や保育士がその子の現実を根気強くきちんと受け止めてること、そして、個に応じた様々な手法でアプローチを図ること、さらには保護者とその成長の一つ一つをていねいに確認することで、保護者自身が子どもの今ある姿を笑顔で受け止めるように変容してきたことなどが報告されました。
また、参加者からも、4本の報告に重なるそれぞれの取組や子どもの実態が語られました。
今、目の前に存在する子どもたちの現実から目をそらすことなく、結果を焦らず、なかまや保護者とのつながりを信じながら、取組を進めていくことの大切さを再確認することができました。

【第3分散会】

磐城第一保からは、保護者の保育士体験を通して信頼関係をもち、共に子育てができるようにしてきた取組が報告されました。
福住小からは、友だちの「やさしいところ」を見つけることで安心し、生き生きと生活ができる学級づくりをしてきた取組が報告されました。
河合第一中からは、文化祭での劇やタイムリーに発行し続けた学級通信を通して、子どもと教師の信頼関係を築いてきた取組が報告されました。

討議では、6人程度のグループに分かれてKJ法を用い、各所属の人権教育における課題を整理しながら討議をすすめました。
信頼関係の構築や、安心できる居場所づくりをするためのスキルとして、保育士体験や学級通信、「やさしいところ」探し等があること、また、スモールステップ・職員間の大切さについて確認することができました。

【第4分散会】

片塩小からは、グループワークトーニング(GWT)で、協力することの楽しさを子どもたちは学び、「作戦タイム」という活動のふり返りにより、積極性を引き出され、クラスの問題までも自分たちで解決しながら成長する姿が報告されました。
新庄小からは、幼稚園に小学2年生の生徒が週一回のペースで「お話配達」を行い、その交流経験からは人に喜ばれることを励みにし、子どもたちがぶつかり合いながらも生き生きと活動し、地域の人にもかかわりを広げていく姿が報告されました。
天理南中からは、自己紹介、ディベート、自分の夢を語るといった段階を踏んだ取組の中で、伝える力を獲得し、「伝え合う力」とは「相手を思いやること」だと理解していく生徒の姿が報告されました。
この取組を支えるものとして、日記指導で生徒を励ます教師の姿がありました。

討議では、子どもの状況を見極めた仕掛けに取り組んでいく教師の役割と、課題をかかえる子どもたちにていねいにかかわる継続的な取組の重要性が再確認されました。

【第5分散会】

大福小からは、様々な生活課題をかかえた転入生Aが、なかなか馴染めないクラスの中で、「つるのたより」の劇を通して、葛藤しながらなかま関係を築いていく取組が報告されました。
新庄中からは、子どもたちの生活課題を見つめ返し、お互いのちがいを認め合う中で、子どもたちが変容していく実践が報告されました。
片塩中からは、生活のリズムを振り返り、ストレス解消の取組により、生徒の心にゆとりや余裕ができ、イライラしやすかった生徒たちが落ちつき始めた様子が報告されました。

討議では、具体的な子どもたちの姿を通して、一人一人の「違い」を認め合い、共に生き育つ関係をどう作っていけばよいのか、といった点でお互いに学び合いました。
周りの人と関わることの大切さを子どもたちが自ら考え、問題を解決しようとすること、その中から、ともに育つ関係ができていくことを確認しました。
また、教師集団が互いを認め合い、連携を深め、団結することの重要性を確認しました。

5.保幼・小・中・高・地域の連携と教育力

六条小からは、保幼・小の連携の取組が報告されました。
質疑応答の中で、入学を迎える子どもたちに、「小学校」とのいい出会いをさせてやりたいという教師の思いが語られました。
部落問題と、どんな出会いをさせてきたのかという人権・同和教育の積年の課題と共通するものがありました。
丹波市小からは、「しんどい」子どもと、その子を取り巻く学級集団の成長を感じさせる報告がなされました。
教師の熱い思いや子どもたちに対するあたたかい愛情こそが、子どもたちを変えていく力であり、「その子」を認める学級集団を育てることが、「しんどい」子を変えていく力になるということを強く実感させられました。
西吉野中の取組は、親や地域の仕事を見つめる体験学習を通して、子どもたちが自信や達成感を感じ、故郷に誇りをもっていくというものでありました。
自分のふるさとを、胸をはって語ることのできる子を育てたいという同和教育がめざしてきた課題と相通じるものがありました。

特別分科会

【第1分散会】
「変革の時代 -人権教育の課題 -実践的で役立つ人権教育の展開を-」

  • 近畿大学教授 北口末広さん

北口末広さんこれまでの同和教育が成果をあげてきたことを具体的に示していただきながら、これからの人権教育に示唆をいただきました。
日々のくらしの中の人権問題にもふれながら、「差別」とは?「人権侵害」とは?ということをていねいに数々の事例をもとにお話いただきました。
「人は聞くだけだったら忘れてしまう・・・それを見て、やってみてはじめて気づくことができる、またそのことを自分のものにして使うことができる」という北口さんのお話を通して、聞いている私たちは、日々の自分の生活と重ねることができたように思います。

また、社会全体に様々な人権侵害が蔓延しているこの頃、しくみは変えていけるし、変えていくものであるという発想の大切さにも気づかされました。
「人権教育の課題」について楽しく、深く考えさせられたひとときでありました。

【第2分散会】
子どもたちを こころ豊かに育てよう ~生きる力を育むために~」

  • 女性ライフサイクル研究所 森﨑和代さん

森崎和代さん子どもの発達を知ったうえで、子どもたちが自分自身とまわりを信じて生きていくために、周りのおとながどうすればいいかということをお話いただきました。
子どもたちが犠牲になるニュースがマスコミを賑わしている昨今、おとなであるはずの親がまだ未成熟なゆえに起こってしまうケースが多いです。
子育ては周りの人に助けてもらっていいのです。
「助けて」と言えないがゆえに起こってしまう悲劇もあります。
ストレスのはけ口が子どもにならないようにしなければなりません。
子どもは周りのおとなの言動で、自分がいかにかけがえのない存在かどうかをからだで感じて育ちます。
おとなである私たちも、自分を大事にすることがいかに大切であるかを示唆いただいた講演でありました。

【第3分散会】
「柳本飛行場と朝鮮人強制連行」

  • 髙野眞幸さん

髙野眞幸さん天理市にある柳本飛行場の建設には、朝鮮人労働者が数多く就労したとした史実があります。
その歴史を細かい部分までお話いただきました。
戦争中も戦後も、激しい人権侵害を受けていた朝鮮人労働者が、「逃亡」「詰め寄る」という抵抗を示したということなど、差別迫害に屈しなかったたくましい労働者たちの一面も知ることができました。
戦後すぐの時期には多くの朝鮮人が飛行場周辺に残ったが、その後大阪などへ移住した人も多いです。
残っている人の話を聞くことで、戦争と在日朝鮮人の関係を想像することもできます。
また、現在の天理が戦争とどのように関わり、戦争が何をもたらすのかを考えることもできました。

高野さんの熱心な話ぶりから柳本飛行場はその歴史がよくわかる戦争遺跡だと知ることができました。

【分科会アンケートより】

○「いのち教育」に取り組んでみたいと思っていたのですが、アプローチに悩んでいたので、とても参考になりました。

○保育所勤務ですが、小・中学校の取り組みを聞くことができて、大変参考になりました。
部落問題について、知らなかったことも聞くことができてよかったです。

○実践を取り入れることはできにくいかもしれませんが、それぞれの先生が児童・生徒に向かい合っている姿に学ばせていただこうと思います。

○部落の有無にかかわらず、部落問題学習を1年から系統立てて学習する必要を感じました。

○今後の人権教育の方向について、今までまよっていたり、はっきりわかっていなかったことが整理できました。
今まで大切にしてきた奈良の同和教育の上に立ってさまざまな問題をきちんと整理し、方向を決めていくことの大切さを考えることができました。

○自分の気持ちに理由をつけて話し合うことによって、友だちの気持ちに気づき、なかま集団が育つことを教えていただいた。

○参加型のグループ討議にはエネルギーがいったが、能動的な思いで考えることができ、疑問を見つめるきっかけとなった。

○それぞれの報告から、子どもと真剣に向き合う教師の情熱をもらいました。
明日からの保育で、しっかりと向き合ってできることから始めていきたいと思います。

○教師集団のつながりがないと、どんな取り組みもできないと感じました