「お母さん、あれなんて書いてあんの」
「あれか、『弱冷車』って書いてあるの」
「どういう意味」
「冷房が弱い車という意味やで。冷房がききすぎたらあかん人のためにしてあんの」
「ふーん」
足をぶらぶらさせながらちょこんとシートに腰掛けている4・5歳の女の子が、20代半ばの茶髪のお母さんに問いかけている場面に出会いました。
この微笑ましい会話に、ほっとしました。そして、空気を吸うように、人権感覚が培われる瞬間でもありました。
昨年は、子どもの命が奪われる出来事が相次ぎました。そうした中にあって、はじめに紹介した会話に接することができて、なにか救われたように思いました。と同時に、母親の説明を聴きながら、「冷房がききすぎたらあかん人のため」というメッセージが、女の子にとっては、何気ない会話の中から人権について気づくことになるのではと思いました。
「新世紀」を迎えた昨年、これまで経験をしてこなかった出来事が、次々と起こりました。21世紀を占うような一年であったように思います。そして、人権教育の必要性を実感した一年でもありました。
今年は、4月から新学習指導要領が本実施されます。いよいよ本格的な教育改革が進められようとしています。今後50年間の日本の教育の方向を決定する重要な年になりそうです。同時に、人権教育への期待とそれにどう応えるのかが問われることになると思います。
教育制度や社会がどう変わろうと、これから50年が経っても、はじめに紹介した親子のような微笑ましい会話があることを望みたいと思います。