あるファーストフード店の前を通りかかると、「当店のハンバーグは、オーストラリア産の牛肉を使用していますので、心配はありません」という看板がありました。同じ内容の看板が、ある牛丼店にも掲げられていました。また、連日のように「狂牛病」に冒された牛の映像がテレビに流されています。
「狂牛病」問題が起こってから、国内産の牛肉の安全性が疑われています。また、すでにヨーロッパでは使用されていない「肉骨粉」が、国内においてはずっと使用されていたという事実が明らかとなり、人々に一層の不安を与える結果となりました。一方、酪農家をはじめ、食肉産業、焼き肉店などの飲食店、食肉関係に携わる人々に与えた風評被害による打撃は、はかりしれないものとなりました。
「信用」や「信頼」を得るには、多くのエネルギーと年月が必要です。しかし、それらを失うのは一瞬です。食肉関係の人々は、なんの責任もない中で、これまで培ってきた「信用」を失ってしまったことに、この上ない憤りと先行きへの不安を持たれていると思います。すでに一部報道では、「薬害エイズ」等の教訓が政府の安全管理に活かされていないという批判が起こっています。
こうした状況の中で、先に紹介した看板や映像を目にしたときに、私たちは何を感じるでしょうか。
これまで、ファーストフード店で売られているハンバーグは、外国産の牛肉だということは周知の事実であったと思います。看板の文言は、消費者に安心感を与えるという意図があるわけですが、そうしたこととはうらはらに、「国内産は危険です」という「隠れたメッセージ」になるのではないでしょうか。 また、「狂牛病」に冒された牛の映像は、私たちに恐怖感を与えるだけでなく、「障害者」への偏見を助長させる「隠れたメッセージ」にならないか、危惧します。
人権教育は、「隠れたメッセージ」や「隠れたカリキュラム」を大切にします。平和学習の際に、学級にいじめや暴力が存在すれば効果は上がりません。また、人権・部落問題学習の授業中は、自由に意見が言えるのに、その他の教科学習では間違いは許されないとなれば、人権・部落問題学習が内実のないものとなります。校・園・所内の掲示板に掲げられているポスターや標語等が、日本語だけでなく、ハングルや英語・ポルトガル語等もあれば、子どもたちは「隠れたカリキュラム」によって多文化を学ぶことになると思います。
「隠れたメッセージ」を読みとることができる人権感覚を身につけたいと思います。