人権エッセイ集

2005年度 アイドルトーク 02

3月号「よく知ること」

昨年8月9日、スペースシャトル「ディスカバリー」は宇宙空間での15日間の活動を終え、地球に帰還しました。このディスカバリーには、日本からは野口総一さんが搭乗し、船外での修復作業などを中心的に行う様子が伝えられました。また、このフライトでは、日本製宇宙食ラーメン「スペース・ラム」が積み込まれました。無重力状態の中で飛び散らないようにスープにはとろみがつけられたり、船内の70℃のお湯でも戻せるような麺が使われたりしているそうです。野口さんの要望で、しょうゆ味だけでなく、みそ味、カレー味、とんこつ味も開発されました。科学技術の粋を集めた精密機器に囲まれた機内で即席麺を食べる野口さんの姿には、ユーモラスな感じとともに、親近感を持ちました。この「スペース・ラム」は、ほかの宇宙飛行士にも振舞われたそうです。

もうひとつ、野口さんが同乗した飛行士に配ったものがありました。それは、宇宙服のワッペンです。野口さんは、出身地の湘南茅ヶ崎のシンボルである烏帽子岩の模様の入ったワッペンを宇宙服につけてシャトルに乗り込みましたが、他の飛行士もそのワッペンを欲しがり、クルー全員が烏帽子岩のワッペンをつけてのフライトになったそうです。このこととともに、飛行期間中茅ヶ崎で行われた烏帽子岩のライトアップや懐中電灯で宇宙に光のメッセージを送る集会などが放映されたことにより、野口さんが横浜生まれで茅ヶ崎育ちであることは、日本中( もしかすれば世界中) に周知されることとなりました。

こんなふうに、野口さんが即席麺を好きなことや、神奈川県で生まれ育ったことなどを知っていくうちに、見ず知らずの野口さんが少しずつ身近に感じられるようになってきました。今まで知らなかった情報を知ることは、その人との距離を縮めていくものです。

ところで、かつて大きな問題となった「部落地名総鑑」が新たに大阪市内で見つかりました。全国の被差別部落の地名や所在地などが書かれており、大阪府下の部落については最寄り駅からの距離や道順も記されているようです。これを所持していた業者は「『地名総鑑』を使って出身地を調べるのはどの業者もやっている」と話しており、身元調査を依頼する人があとを絶たない状況が推し量れます。こうした方法で知った個人の住所や出身地等に関する情報を、結婚や就職に際してその人を差別し、一方的に関係を切るために使うことは許せません。

よく知ることは、人との距離を縮めるものであってほしいと思います。

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