BSE問題が大きく取り上げられて以来、日本では「全頭検査」が世界に先駆けて実施されました。このことは、「安全」の確保とともに、失われかけた牛肉についての「安心」と「信頼」を取り戻すための取組だったといえます。また、スーパーなどでは国産牛肉の流通経路や生産業者情報などを売り場や各商品に表示するなどの工夫も行われてきました。最近では商品についているID番号を打ち込むと、その牛を育てた生産農家や解体に携わった食肉センター・加工場などの情報が担当者の写真つきで詳しく調べられるシステムも導入されています。このような生産者の「顔の見える」情報の提供は、まさに国産牛肉を「安心」して食べてもらえるための努力だと思います。
このような中、昨年末にはアメリカ産牛肉の輸入が再開されました。しかし、成田空港に到着した北米産牛肉に特定危険部位の脊柱が混入していることがわかり、アメリカ産牛肉の輸入は解禁からわずか1か月で再度全面停止されることになりました。このことについてアメリカ側は、「今回出荷されたのは安全な月齢4か月半の牛肉。この商品が危険なのではなく、日本向けに認可されていないものが出荷されたのが問題。この2つは分けて考えなければならない」などと述べ、あくまでも「安全」であることを強調しました。でも、これでは「安心」できません。この牛肉が安全かどうかだけではなく、約束が守られなかったことで信頼関係が崩れているからです。
文科省の『安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告書』には「人々の安心を得るための前提として、安全の確保に関わる組織と人々の間に信頼を醸成することが必要である。互いの信頼がなければ、安全を確保し、さらにそのことをいくら伝えたとしても相手が安心することは困難だからである。」と書かれています。
さて、子どもたちの命が奪われる事件が続発する中、学校や地域社会では防犯設備の増強や校区内巡視など子どもたちの「安全」を守る取組が続けられています。さらには、ITを活用した新たな防犯機器の開発・導入も進められています。そうしたことが「安心」に結びつくには子どもと教職員・地域や関係機関の方々との信頼関係をさらに確かなものにすることが求められます。「安心」は、「安全」確保と「顔の見える」関係づくりから生まれます。