学校で、6年生のAが話しかけてきました。
「先生、うちのおかあちゃんが3日前から風邪ひいて寝てるねん。」
「大変やなあ。」
「それでな、俺、風呂3日間入ってないねん。」
「えっ、風邪ひいたん、自分か。」
「いいや、おかあちゃんや。」
「お母さんが風邪ひいて、なんで自分が風呂入らへんの?」
話を聞いてみると、Aの家はエレベーターのない4階建て住宅の3階にあります。この子には進行性の「障害」が足にあって、一人で階段の上り下りは大変です。小さい頃は自宅の風呂を使っていましたが、Aの体格が良くなって手狭になったこともあり、最近は、母親と一緒に階段を下り、近くの銭湯まで車で行っていると言うのです。お母さんの風邪ひきと、Aの風呂との関係がやっとわかりました。
こんなこともありました。
Aが、
「先生、俺な、大きなったらウェイターしたいと思うねんけど、おかあちゃんに言うたら、『お前には、立ち仕事は無理違うか。それから、あまり歩かんでもいいように、駅に近い所がええで』って言われた。先生どう思う。」
と聞いてきました。小学校6年生で、こんなに具体的に将来の仕事のことを考えたり、親と話したりしている子は、そういないのではないかと思いました。
さて、「障害の程度に応じ特別の場で指導をおこなう『特殊教育』から、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う『特別支援教育』への転換」が示され、来年度から特別支援教育が本格実施されます。「一人一人の教育的ニーズ」をとらえるには、障害を医学的によく知るだけではなく、その子のくらしを深くとらえることが必要です。
お母さんが風邪を引くと風呂に入れなくなるAのくらし、将来の仕事について考え始めているAの姿・・・。一人一人のくらしの事実に基づいて子どもの育ちを「支援」し、共に生き、共に育つ学校づくりを進めましょう。