忙しく仕事に追われる毎日、なかなかゆっくりと本を読む時間もとれません。そんな中少しでも時間を見つけて読み返している本があります。重松清さんの『青い鳥』という短編集です。
村内先生という中学校の国語の教員が、いろんな学校へ赴任します。どこへ行っても苦しみや悲しみを背負っている子に寄り添い続けます。村内先生には吃音があります。子どもとの出会いの場で「うまく喋れないから…、大切なことしか言いません。でも、一生懸命喋ります。本当に大切なことだけ喋ります」と語ります。
虐待を受けて心に重い傷を抱え荒れている子、いじめに加わったことを悩み苦しんでいる子、ひとりぼっちで閉じこもっている子らのそばでじっと待ち、微笑みながら見守り続けます。
多くを語らず、子どもの話に耳を傾けます。そして「先生にできるのは、そばにいることだけ」「ひとりぼっちじゃないんだ」と話しかけます。初めは村内先生を疎んじ、遠ざけ、心を閉ざしていた子にも、そんな先生の聞き取りにくくても、伝えたいという思いで紡ぎ出した「本当に大切なこと」が胸の奥に届いていきます。
「君と出会えてよかった」「間に合ってよかった」とぽつりつぶやき、また新しい赴任先へと向かう村内先生の言葉は子どもたちの心に残っています。
これまで多くの先輩方から、子どもに寄り添うことの大切さを教えていただき、自分なりに取り組んできました。しかし、「これだけやっているのに…」「何でこの子は…」と矛先を向けてしまったこともありました。また、子どもにかける言葉をどれほど考えてきたのかと、この本を読むたびに問い直します。
今回の奈人教研究大会の特別分科会で講演された土田光子さんは、「同和教育を一言で表すなら、子どものせいにしないことだ」と語られました。また、全人教香川大会では、「寄り添うという言葉が空洞化しているのではないか。寄り添うことの内実を見つめ直そう」という総括がありました。
私たちは、子どもに数多くの言葉のシャワーを浴びせます。その一言一言がどれだけ子どもの心に伝わり、響いているでしょうか。村内先生の言葉がなぜ届くのか、自分が寄り添っていると思っていても、子どもはそう感じていないかもしれないと絶えず問い続けることも大事だと思います。
子どもたちがそれぞれの「幸せの青い鳥」を見つけられるように、年度のしめくくりとなる三学期のスタートをもう一度「寄り添うこと」から始めてみませんか。