人権エッセイ集

2023年度 あいどるとおく

6月号「奈良の教育」

第73回全国人権・同和教育研究大会(奈良大会)のスローガンは、「むなつき坂をこえて、すべての人を包摂する社会の構築を奈良の地から」でした。そして広報「なかま」の編集を担当させていただくことをきっかけに、『むなつき坂をこえて』を読み返しました。奈同教結成10周年を記念して発刊された書籍ですが、私の所属に保管されていたのは2002年発行の50周年記念の復刻版でした。タイトルにある「むなつき坂」について記述のある「まえがき」は見る機会が多いものの、全10章からなる本文はじっくりと読んだことはありませんでした。

本文には、子ども自身がようやくの想いで吐き出した厳しい差別の実態や、人間の結び合っていく過程(原文)を同和教育のすがたと捉え、一歩ずつ実践を重ねる教師の内省がびっしりと綴られています。この書籍の見返しの厚みにも及ばない自分自身の実践と重ねながら、すべてを読み終えるまでにはもう少し時間が掛かりそうですが、とばし読みをした先にあった最終章「わたしたちの来たみち・行くみち」の一文を紹介します。(以下原文のまま)

奈良の同和教育、といえば、きっといくつかのことを思いだすだろう。人間からいっても、ああ、アイツカ――と思いうかべる人がきっといるだろう。いくつかの奈良の実践、というより、何人かの教師の姿が実践よりつよいイメージとなってでてくる、というのも事実だろう。(中略)こうしてみると、奈良の同和教育は、組織と組織とが、というよりもむしろ、人間ひとりから他のもうひとりへ、といったほうがよさそうだ。

昨年度の全人教奈良大会は、70年におよぶ部落問題の解決を図る教育を振りかえりつつ、社会の変化や状況を捉えて、20年後を展望できる人権教育・啓発の創造について発信することができました。これからの人権教育の推進においても、所属や研究組織をベースとしながらも会員個々のつながりと交流の中で子どもの実態に即して変容しながら、持続可能なものとしていっそうの深化をはかりたいものです。最終章は、次のような文で締めくくられています。(以下原文のまま)

わたしたちの奈良は全水発祥の地だ。わたしたちは「人の世に熱あれ、人間に光あれ。」というあの宣言をわすれることはできない。しかし、今のわたしたちは、あの「人間に光あれ」を部落の生まれであろうがなかろうが、〈アク〉いっぱいの人間だろうがなかろうが、すべての国民の結びあうなかで光をともそうと思っている。

目次