人権エッセイ集

2023年度 あいどるとおく

3月号「自分ごととして考える」

新しい年を迎えると毎年、職員室の机にしまった封筒から古い新聞を取り出して読むことにしています。すっかり黄色く変色し、折りめには穴が開いてしまったこの新聞の日付は、1995年2月17日、その1面には『阪神大震災1ヶ月特集』というタイトルが記されています。その中の『北へ南へ“学童疎開”』と見出しのついた記事は、被災地の子どもの転校状況を伝えています。文部省(当時)のまとめでは、小学生20,018人を筆頭にして合計24,454人の子どもが1ヶ月の間に転校したとあります。さらに、転入先の子どもたちが学級会で「楽しく過ごしてもらうにはどうしたらいいか」を話し合った小学校の話題にふれ、『慣れない土地で懸命に生きる子どもたちを温かい気持ちが包み込んだ』と記事はまとめられています。

人権教育の実践で、「自分のこととして考える」と「自分ごととして考える」の違いについて語られることがあります。先の話題においても「もし自分が被災者の立場で、転校することになったら」という仮説的なアプローチよりも、「見知らぬ土地の学校へ転校していく人たちの不安や寂しさにつながる自分の経験はないだろうか」という迫り方をすることで、学級会での議論もより主体性をもつのではないでしょうか。
あらゆる差別の実態に対して、被差別の側にある人々の気持ちを外側から推測するのではなく、自分の中にある差別心と出会い、自分の内側のこととして向き合うことでこそ変容していく子どもの姿があります。そして、教員自身もまた、個別の人権課題を自分ごととして考えた先に抱いた思いを実践のスタートとすることで、ゆるがぬ立ち位置となって取組が定まってゆきます。「差別の現実に深く学ぶ」という言葉の解釈のために、「自分ごととして考える」ことがひとつのキーワードとなり得るのではないでしょうか。

元日に起きた能登半島地震の発生を受けて、年明けにはそれぞれの所属においても子どもたちに様々な言葉がけがあったことと思います。今回の地震によってお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りし、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

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