事業報告

2009年度 奈人教 事業報告

第23回『なかま』実践研究集会

2月12日、いかるがホールを会場に県内外から約220人の参加を得て、第23回『なかま』実践研究集会を開催しました。

本研究集会は、『なかま』教材を中心とした授業実践を軸にしながら、部落問題学習やさまざまな人権問題に関する教材開発、授業の工夫についての研究と交流の場として、1988年に第1回が開催され、本年で23回めを迎えました。

開会行事では、山本竹男会長の挨拶の後、奈良県教育委員会人権・社会教育課の藤田和義課長補佐からご挨拶をいただきました。

【記念講演】

人推研大阪府松原市立第七中学校の深美隆司さんから「人間関係スキルを身につけさせる学習の実践事例」と題して講演をいただきました。

深美さんは、自分がこれまでに取り組んできたことの中で、なかなか課題解決に向かわなかったこと(具体的な場面で行動できる力をつけきれていないこと)に対して、松原第七中学校の「人間関係学科(HRS)」の取組と出会うことで、生徒へのかかわり方を変えたいったことについて、具体的な事例やロールプレイを通してお話しいただきました。
まずはじめに、「心を開いていくことの大切さ」を"アイスブレーキング"という形で、参加者とともに体験しました。
『相手を受け止めること』『相手と合わせること』『相手とつながっていくこと』の重要性を子どもたちに感じさせるための方法の一つとして、3つのワークを取り入れ、参加者全員で感じ取りました。

次に、"反復学習"について触れられました。
反復学習を否定するものではなく、その必要性や効果を認めたうえで、それだけではなく「学習意欲に結びつくような仕掛けづくりを学校ぐるみで探ることが必要だ」ということを話されました。
その後、反復学習をする過程で子どもたちがどのようにストレスを感じていくのかということを、実際に体験しました。
そして、そのストレスに気づいた時にどう対処させていくのかということが、次の取組として重要になってきます。

また、会場に何枚かの写真を提示し「認知」への理解について話されました。
自分の経験や自分だけの見方で、物事を「認知」していることを体験することで、違った見方をすることへの理解を示すことの大切さを感じ取りました。

最後に、「教員の相談力の重要性」ということで、2つのロールプレイを通して『アサーティブなあり様』と『聴き方』について話していただき、改めてわたしたちの働きかけの重要性を感じさせられました。

【分科会】

◇第1分科会

第1分科会広陵町立広陵西小学校の4年学年集団のみなさんから、中学年用『なかま』の「青い青い海の島で」を用いた学習から、自分も他の人も大切に「共に生きる」ということについて考えていったという取組が報告されました。

「沖縄ってどんなところ?」から始まり、運動会でのエイサーでまず沖縄を知り、アニメ「かんからさんしん」の視聴などで、沖縄戦について深めていったこの学習を通し、子どもたちの平和への願いは高まっていきました。その後は、「視覚障害」を理解し、バリアフリーを考えようという取組につなり、「みんなが笑顔で暮らせる社会、争いがなく互いを助け支え合える社会をどうすればつくれるのか」ということに迫っていった様子が報告されました。

討議では、ヒロシマやオキナワの学習を進めるときは、「被害」の視点からだけではなく、様々な視点からの取組が必要であります。「いのち」のことを考えることは、同時に「死」の問題を考えることでもあります。そういう意味で「死」というものを大切にしなければなりません。
また、戦争になると「あたりまえ」のことがそうでなくなります。日常の「あたりまえ」の生活を精一杯生きることの大切さを実感することが、「いのち」や「死」について考えていくことにつながるといった意見が出されました。

子どもたちにとって「死」が現実的に捉えにくいものであるならば、あらためて「いのち」という普遍的な人権を実感することと、それぞれの「いのち」を支え合って生きていることに気づく大切さを確認することができました。

◇第2分科会

第2分科会御所市立秋津小学校の上田悦代さんから、学級で課題をもった子どもに自分の生活と重ね合わせられるように部落問題学習を創造してきた「すてっぷばいすてっぷ」の取組が報告されました。

報告者が今までどの学年を担任しても地道に部落問題学習から目をはなさず実践を積み重ねてきたことが感じられる報告でありました。

会場から、小学校で完結する部落問題学習でなく、中学校、高校と系統だった学習にするには課題があるが、そこをどうされているのかという質問が出され、報告者の校区での交流の様子から議論が深まりました。

校区の様子、子どもの実態が違うので部落問題学習も違って当然ではあるが、御所市のように中学校区で授業研究などをしてお互いを高め合うことが大切ではないかという意見がありました。

日々の授業で出される子どもたちの意見にはその子のくらしが映し出されていることも多くありました。
授業者がそれをうまくとりあげ授業を展開することが子どもたちにとって、他人事でない学びにつながるということを確認することができました。

◇第3分科会

第3分科会橿原市立新沢小学校の岡田寛人さんから、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と題した取組が報告されました。

部落史観の転換にのっとった部落史学習の通史の部分では、『ケガレ』・部落の人の技術・文化をおさえ、校区のA村の地域史では、近世の豊かな様子・明治時代の様子・水平社とA村をおさえたもので、実際の資料を提示したり、A村の行事への参加・見学・聞き取りなどを取り入れ、子どもたちのなかにA村を誇りに思う意識が育っていったという報告がなされました。

最後に西光寺の住職 清原先生を招き、話を聞くとともに、『なかま』教材である「人の世に熱あれ、人間に光あれ」にいたるていねいな部落史学習の実践報告でありました。

討議では、校区における部落の有無に関わらず、部落問題学習に取り組むわれわれ自身の姿勢や立ち位置を問い直す必要があること、また、地域の教材を掘り起こす作業をこれからも大切にしていきたいなどの意見が出され、参加者とともに確認することができました。

第22 回『なかま』実践研究集会アンケートより

◎全体会(記念講演について)

  • アイスブレーキングやロールプレイの受け止め方、聴き方などわかりやすく講演していただき、幼稚園でも「あいこじゃんけん」など使うことができるかなと思いました。
  • 自分の児童との関わり方を見直す機会になりました。教師は子どもたちのモデルである。見本となるような対応であったり、言葉遣い等も十分注意しないといけないと再認識しました。
  • 「 受け止める」という行動が大事であることがわかりました。教師が心を開くことが、生徒たちの心を開くことにつながるので、これからも積極的にいきたいと思いました。

◎分科会(報告や討論について)

第1分科会
  • クラスの中でも「死ね」や「殺す」という言葉が飛び交うことも少なくないので「命」の大切さを訴えかける取組をこれからも継続していかないといけないと思いました。
  • 「 いのち」について考える取組として、平和、誕生、死様々な方面から考え取り組めるんだと感じました。

第2分科会

  • 中学校区の連携の大切さを改めて感じました。文化として部落問題を考えて、部落出身の子が下を向かない様な計画を立てたいです。
  • 若い先生の問題や、部落問題学習についての取組の課題は、どこでもある共通の問題だと感じました。少しでも、前進する姿に今日の研究集会、よかったと思います。

第3分科会

  • 部落史を教えこむのではなく、見ようとしてなかった、いや、見ることさえしなかった子どもたちに、見たい、見ようとしていく気持ちを育み、見えてくると気になってしようがない子どもたちになっていく様子がよくわかりました。
  • 部落史に学ぶということの必要性・重要性を強く感じさせてもらったことに感謝できました。また、取り組むためには、自分自身が部落史観の転換をしなければいけません。そのためにも、地域の事も知っていかなければと思いました。原点に戻ってがんばろうというエネルギーを与えてもらいました。