みなさんは、『ハチドリ のひとしずくいま、私にできること』という絵本を ご存知でしょうか? 森が燃え、森の生きものたちが 逃げていく中、クリキン ディというハチドリだけ は、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火 の上に落としていきます。 二〇〇五年に初版が出た絵本ですが、最近この話を思 い出す出来事が二つありました。
一つめは、「バナナの輪」 です。四月に、サッカー・ スペインリーグの試合で、 観客がブラジル人選手に向 けてバナナを投げ込むとい う差別行為がありました。
「バナナを投げる」=「相手をサル扱いする」という 人種差別です。この行為に 対して、ブラジル代表のネ イマール選手は、バナナを 手にした自分の画像をネッ ト配信し、抗議の意思を表しました。するとまたたく間に、バナナを食べる写真 を投稿し差別反対を訴えるうねりが、サッカー選手た ちの間で広がりました。
二つめは、「憲法九条に ノーベル平和賞を」実行委員会の運動です。戦争をしない憲法九条を七十年近く保持している日本国民が、二〇一四年度ノーベル平和賞候補にノミネートされました。実はこの運動、もともとは神奈川県在住の一人の女性の行動から始まったものだそうです。その後、なかまとともに実行委員会を発足し、二万以上もの署名を集め、ノーベル委員会に推薦状を送ったというのです。
二十一世紀は「人権と平和の世紀」と言われますが、人権や平和を脅かすことにつながりかねない危機的な状況に危惧を感じずにはいられません。
絵本の中で、動物たちが「そんなことをして何になるんだ」と笑います。クリキンディは「私は私にできることをしてるだけ」と答えています。この後、クリキンディの行動が広がっていったのかどうか、また、森の火がどうなったのかどうかまでは描かれていませんが、私たち一人一人が人権や平和を守るために、まず自分に何ができるのかを考え、行動することが求められているのではないかと思います。火が森を焼き尽くす前に。