人権エッセイ集

2023年度 あいどるとおく

1月号「安心のまちづくり」

先日、東京へ出張したおりの話です。会議を終え、春から上京している長女と合流して、夕食をとるために飲食店を訪れました。いざ注文するメニューが決定して、スタッフを呼ぼうとする私の動きをさえぎった長女がめの前にさし出した物は、一枚の紙の注文伝票でした。聞くとこのお店では、注文するメニューごとの記号を伝票に書いてスタッフに渡す方式なのだそうです。「今やタブレットや個人のスマホで注文することも一般的になった時代に、しかも都内でこんなアナログな方法なんて。」と驚いていると「注文を周りに聞かれることもなく、スタッフも繰り返さないのは引っ込み思案で内気な人に優しい方式なのだ」と長女に教えられました。

紙の伝票は、機械が苦手な人にとっても優しい方法であると思います。反面、文字を書くことが困難な人にとってデジタル機器は非常に便利なツールとなっています。飲食店で働く外国の方が増えている現状なども含めると、注文方法ひとつを考えても、子どもたちと様々な授業ができそうだなと思いました。

「アナログとデジタル」といえば、セルフレジも主流となってきました。ずいぶん前に、授産施設に関わる方の講演で「就労で得たお給料で施設利用者さんと買い物に行くことがある。利用者さん自身はお金を自分で払うことを一番に楽しみにしているのに、財布からお金を出すときに時間が掛かってしまい、並んでいるお客さんの視線が気になってしまうことがある。それを見かねた我々スタッフが支払いをすることになるのがとても申し訳なく思うときがある。」と聴いたことがあります。

人権尊重にあふれるまちづくりにおいては、「便利さ」よりも「安心」という言葉がキーワードになるのではないでしょうか。ちなみに、先の講演においてその講師は、「どれだけの時間を待たされてもいい人が並ぶ、有人レジのレーンをひとつだけ作ってはどうか。」と提案されていました。それを聴いて、私はだれもが安心して楽しく買い物ができるショッピングセンターの光景が思い浮かびました。
 

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