今年の6月、人気バンドの『コロンブス』という曲のミュージックビデオについて、その内容の一部が先住民に対する差別を助長するものだと批判が集中し、話題となりました。メディアやSNSは一斉に彼らを断罪したことが記憶に新しいのですが、少し立ち止まって“自分事として”考えてみたいと思います。
コロンブスといえば、現行のある中学校用教科書を見てみると、『東へ向かったポルトガルに対抗して、スペインは、大西洋を西に航海してインドへ行くというコロンブスの計画を支援しました。コロンブスは、アメリカ大陸付近の西インド諸島に到達し、そこをスペイン領としました。』『先住民のインディオが築いたインカ帝国などをほろぼし、その文明を破壊してしまいました。さらに、先住民を奴隷として、銀鉱山の開発などを行いました。』とあります。「発見」が「到達」に変わり、ネガティブなこともきちんと書かれています。私が学生時代に習った内容とは大きく異なります。
では、日本はというと、明治政府は、「北海道開拓」という名のもと、アイヌの人びとの土地を奪い、固有の文化を破壊しました。また琉球王国に対し一方的に領有権を主張し、「琉球処分」と名付けて日本の領土としました。朝鮮半島を植民地化して、「韓国併合」と呼んだのも同じことです。「開拓」「処分」「併合」と呼んでいても、生命を奪い、土地や財産を奪い、文化を破壊したことは、コロンブスたちがやったことと変わりはありません。だからこそ、今でもきちんと解決できていない問題が残されていますし、何といっても日本人の中に、それらの政策を正当化する考え方が残っています。これも日本が人権後進国と言われる理由のひとつなのでしょうか。
新たな事実が見つかったり、時代の価値観が変わったりすることにより、教科書記述が変更されることはよくあります。しかし、いくら内容が書き換えられても教職員を含む私たちおとなの概念や、子どもたちの教育環境がアップデートされていないと、従前の価値観をそのまま子どもたちに植え付けることになってしまいます。「士農工商」や「部落の政治起源論」が教科書から姿を消したはずなのに、その後に学校を出た子どもたちにもしっかり受け継がれていたことが事実を物語っています。次の世代に正しい知識と認識を伝えていくためにも、今回のミュージックビデオの件を他人事とせず、自分の人権感覚を研ぎ澄ましていかなければならないと感じた夏でした。