春、新しい出会いがあり、新学年がスタートしました。私にはこの季節になると、いつも思い出すAさんという子がいます。
Aさんは初めて担任した5年生のクラスの子でした。土日はお母さんの仕事について行くため月曜日は休みがちで、ちょっとしたことで手が出てしまうことがあり、その度に注意をするということが続いていました。
ある日Aさんは、何があった訳でもないのに、「もう家に帰るわ。」と言い出しました。(どうせ言っているだけだろう)と思った私は「はい。はい。」と言いながら、それでも帰らせないようにAさんのランドセルを背負いながら授業をしていました。ところがAさんは「帰るで。」と言って本当に家に帰ってしまいました。
まわりの先生からは「すぐに家に行った方がいい。」と言われ家庭訪問をしました。お母さんは怒ることなく「どうしてそんなことをしたんでしょう。」とおっしゃいました。しばらく一緒に考えていると、ふと「もうすぐ野外活動でしょう。もしかしたらあの子、父親が急にいなくなったものだから、泊まりで行っている間に私までいなくなったらと不安に思っているのかもしれません。先生、あかんことかもしれないけど、野外活動センターから家に電話をかけさせてやってくれませんか。」と言われました。
学年の先生にも相談し、まだ携帯電話もない頃だったので、10円玉を1枚名札の裏に入れて、Aさんは野外活動に参加しました。結局、電話をかけることもなく、Aさんは生き生きと野外活動に参加しました。「先生、カレーのおかわりいるか。」「いつも家でやってるから洗い物は得意やねん。」と言ってくれたことを覚えています。
私は、少しずつAさんのこともわかってきましたが、まわりの子からは「すぐにたたいてくる子」とされていることを何とかしたいと職員室で相談すると、「大阪の人権読本の『にんげん2年』に『つらいことあるねんな』という教材があるからやってみたら。」と教えてもらいました。授業の感想でAさんは、登場人物「かな」の姿に感じるところがあったのか、「たたきたくないのに、たたいてしまう。もうだれもたたきません。」と書きました。また少しAさんの「本当の心」が見えた気がしました。
私たちの先達は、「家庭訪問」でその子の生活を知ること、「生活を綴る」ことで子ども自身が自分を見つめること、「その子を中心にすえた授業」でその子の変わりめをさぐる取組を重ねてきました。私たちも、その子の変容・自分自身の変わりめに出会えるような取組をしていきたいと思います。