2021年度 あいどるとおく

 

9月号 「『虫』から考えるSDGs

 夏休みのある日のことです。職員室で耳をすましていると、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえてきました。毎年7月の中頃には、アブラゼミやミンミンゼミの声に「いよいよ夏休みだなぁ」と思い、この声が聞こえてくると「もう夏も終わりだなぁ」と少し感傷的な気持ちになります。
 先日読んだ本に、『虫捕りは、子どもたちにとって重要な自然世界とのコミュニケーションだった』とありました。夏休みになると、友だちといっしょに毎日のように虫を捕まえに走り回っていた記憶が私にもあります。家の近くの川の土手やちょっとした雑木林で、セミやバッタ、トンボなどを追いかけていたように思います。あの頃の私は、虫捕りを通じて自然とどんな対話をしたのだろうと考えてみました。自分よりはるかに小さく弱い存在の虫に対して、文字では表せないような残虐なことをして生命を奪ってしまったことがありました。しかしそこから、奪われた生命は二度と戻らないことを肌で感じ取ったように思います。また、さまざまな色や形の虫の中には、カブトムシやクワガタムシのようにみんなから重宝される虫もあれば、見た目やその特徴から、人に嫌われている虫もあります。子どもながらになんとなくその不条理を感じていたように思います。自然を構成する等価値の虫たちに、勝手な「ものさし」で値打ちを決めているのは、私たち人間です。そういえば、宮崎駿さんは映画『風の谷のナウシカ』で、不気味な姿かたちをした王蟲(おうむ)を、腐海の森を浄化する存在として描き、主人公のナウシカに、その抜け殻を「きれい」と言わせています。
 今の子どもたちは、虫捕りに出かける機会が、減ったように感じます。環境の変化からでしょうか。スマホ片手にポケモンを捕まえに行くことはあっても、網とカゴを持って虫を捕まえに行ったという話をあまり聞かなくなったように思います。もしもこれからを生きる子どもたちが、自然との対話を断ち、畏敬の念を失ってしまったら、自然は破壊の対象になってしまうかもしれません。SDGsの目標の中には、地球環境に関わるものがいくつもあります。持続可能な地球環境のためにできることを、子どもたちといっしょに考えるのも人権学習の大事な一つではないでしょうか。